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ペスト菌

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ペスト菌
分類
:プロテオバクテリア門
Proteobacteria
:γプロテオバクテリア綱
Gamma proteobacteria
:エンテロバクター目
Enterobacterales
:腸内細菌科
Enterobacteriaceae
:エルシニア属 Yersinia
:ペスト菌 Y. pestis
学名
Yersinia pestis
(Lehmann & Neumann 1896)
van Loghem 1944

ペスト菌Yersinia pestis、エルシニア・ペスティス)は、グラム陰性通性嫌気性桿菌であり、腸内細菌科に属する。両極染色で、外見は安全ピンのような形に見え、ペスト病原体となる。ペストは人類の歴史を通じて最も致死率の高かった伝染病であり、1347年から1353年にかけて流行した際にはヨーロッパの全人口の約3分の1が死滅した。

なお、微生物学上はペスト菌と仮性結核菌はほぼ同一であり、プラスミドの有無の差でしかない。このためペスト菌は仮性結核菌の亜種とされたこともあった。しかし、その医学的危険性から別種として扱う必要があり、Yersinia pestis保存名となっている。

単独では運動性を持つが、宿主中にいるときには運動性を持たない。

発見

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ペスト菌は1894年にスイスフランス医師で、パスツール研究所細菌学者でもあったアレクサンドル・イェルサン英語版イギリス領香港で発見した。またこれとは独立して、同時期に香港に派遣された日本人調査団のうち、医学者青山胤通が死亡したペスト患者を解剖し、ロベルト・コッホの指導を受けた細菌学者北里柴三郎がペスト菌を発見した[1]。しかし、ペストとペスト菌を最初に結び付けて考えたのはイェルサンであり、当初ルイ・パスツールにちなんでPasteurella pestisと付けられていたこの菌の学名は1967年に、イェルサンにちなんだYersinia pestisに改められた[1]

ペスト菌には3種類の生物型が知られ、それぞれが歴史上のペストの大流行の原因となっている。Antiquaは541年から542年にかけて東ローマ帝国から始まった大流行を引き起こし、Medievalisは14世紀のヨーロッパでの大流行の原因とされる。Orientalis大清帝国雲南省で1855年に始まった大流行の原因であり、また現在のペストの大部分はこの菌によるものである。

病原性と免疫

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ペスト菌の病原性は、F1抗原V抗原と名づけられた2つの抗食細胞性抗原によっており、2つともが病原性の発現に重要な役割を担っている。これらの抗原は、37℃の環境下で生成される。ペスト菌は単球などの白血球内で生き続け、F1抗原、V抗原を産生する。しかし好中球の中では生きられない。免疫作用により、F1抗原、V抗原に対応する抗体が産生され、好中球による食作用を引き起こす。

かつてホルマリンで不活性化したワクチンが使われたことがあったが、活性化した菌が残っている強い危険があるとしてアメリカ食品医薬品局により回収された。効果は薄く、重度の炎症を引き起こすこともあった。F1抗原、V抗原の部位を遺伝子工学により改変したワクチンの研究が試みられているが、F1抗原を欠いたものにも強い毒性があり、V抗原は野生でも変性しやすいという性質があり十分にうまくは行っていない。

ゲノム

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3生物型のうち、MedievalisOrientalisの2ついては、それぞれKIM株とCO92株を使って全長のゲノム配列が解読された。2006年には、Antiquaのゲノムも解読された。KIM株の染色体の全長は4,600,755塩基対で、CO92株の染色体の全長は4,653,728塩基対の長さであった。類縁種の仮性結核菌Y. pseudotuberculosis)やエルシニア感染症を引き起こす原因菌(Y. enterocolitica)などと同様に、ペスト菌の遺伝子はプラスミドpCD1を持っていた。さらにペスト菌は他のエルシニア属細菌が持たない2つのプラスミドpPCP1とpMT1を余分に持っていた。これらのプラスミドとHPIと呼ばれる病原性島は、ペスト菌に特有の病原性を発現させるいくつかのタンパク質をコードしていた。これらの毒性は、細菌が宿主に付着し宿主に自己のタンパク質を持ち込むため、細菌自身が宿主の細胞に侵入するため、そして赤血球からイオンを引き剥がして利用するために必要とされる。ペスト菌と仮性結核菌の違いは特異的な毒性を示すプラスミドの有無のみであり、仮性結核菌はペスト菌の祖先だと考えられている。

2011年ロンドンの黒死病患者の墓地から発見された遺骨を調べた結果、ペスト菌のゲノムは14世紀のものと現在のものとではほとんど変化していないことが判明した[1]。これは、ペスト菌の系統が1つしかなく、直線的にしか進化できない(線的進化)からだと考えられている。

感染性

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伝統的に、ペスト菌に対する初期の治療には、ストレプトマイシンクロラムフェニコールテトラサイクリンフルオロキノロンが用いられてきた。また、ドキシサイクリンゲンタマイシンが効果を発揮するという結果もある。

ただし、上記の抗生物質の1種または2種に対して耐性を持つ菌も分離されている。治療は各抗生物質への感受性、耐性を見きわめて行うべきである。また抗生物質のみの治療が奏功しない患者もおり、このような場合は循環補助、呼吸補助、腎補助など別の措置が必要になる。

脚注

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  1. a b 左巻健男『身近にあふれる「感染症」が3時間でわかる本』明日香出版社、2021年、201頁。ISBN 978-4-7569-2158-1

外部リンク

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コメント

  1. Barack Obama@BarackObama
    x.com/BarackObama/status/1877094443578204474
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    If you're looking for ways to help, go to:
    From time.com
    5:46 AM · Jan 9, 2025
    ·
    豊岳正道正彦
    援助してやりたいが日本に現金がないので8兆ドル米国債を一括売却して1400兆円の現金を国庫に用意して後20兆円カリフォルニアへ義援金として無償援助するから全部被災者の皆さんへ必要なだけ個人に配ってもらう。ついでに米軍が海外駐在してると救助に行けないから地位協定も破棄して全軍帰米出来るよ
    うにしてあげよう。全軍の撤退費用として5兆円やるし岩国基地の核弾頭も持って帰り日本が作った施設はそのまま元の地主に返却する。自衛隊が基地を賃借する。そして自衛隊と能登に直ちに50兆円ずつ潤沢に支給せよ。もちろん無償配布すること。50兆円全てを配らず一部でも私して勝手に利殖したら六法全
    書に従いその者と共犯者は国家反逆殺人罪現行犯で裁くべし。
    法を蔑ろにし財用を紊乱るは国家を毀損するなり。
    成文法は個人の身体生命法益と私有財産法益を等しく守る。
    自然法は衆生の身体生命法益と地球の法益を平等に守る。因縁は不二。
    Sputnik 日本@sputnik_jp
    【東京の梅毒患者 3748人で過去最多】
    x.com/sputnik_jp/status/1876973378411618669
    東京都感染症情報センターのまとめによると、昨年1月から12月29日までの都内の梅毒患者の報告数は3748人となった。比較可能な統計データがある1999年以降では最多。#今日の数字_Sputnik
    豊岳正彦@lyuzhngyn1

    毒スピロヘータは野口英世博士によりあらゆる精神分裂病の真の病因すなわち精神分裂病は細菌同様原虫の脊髄感染が原因のパンデミックであり根治療法は放線菌由来抗生物質ペニシリンセフェムイベルメクチン及び原虫スピロヘータ同様クラミジア破壊ジスロマックの短期大量投与である。精神科は殺人術。
    宋 文洲@sohbunshu
    チベット地震、軍医も4時間以内に空から到着
    x.com/sohbunshu/status/1876783038769578149
    豊岳正彦@lyuzhngyn1
    真の救急救命忘己利他不惜身命南無父母恩重経大慈悲地蔵観音諸仏諸尊菩薩摩訶薩摩訶般若波羅蜜九拝

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